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2025をつくる人たち

中川なかがわ りょうさん

クリエイティブディレクター・デザイナー

国立競技場の柱の前でポケットに手を入れて写真に写る中川さん

中川 亮(デザイナー)|「SUGOI」が世界の共通語になる大会に

2024.11.20

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1991年以来34年ぶりに東京で開催される世界陸上。
その大会を象徴するロゴを手掛けたのが、中川亮だ。
一般公募により368点の中から見事に選ばれたそれは、
都市コードの「TYO」をモチーフに優美かつ躍動感あふれる。
そして、醸し出される日本の伝統美。
スポーツとデザインをこよなく愛する中川のロゴに込めた想い、
そして、積み上げてきたキャリアで築いた“美しさ”とは―。

決められた枠すら、自分のデザインへ

―東京2025世界陸上のロゴが中川さんの作品に決まりました。その一報を聞いたときの率直な気持ちを教えてください。

中川 やっぱり嬉しかったですね。コンペや今回のような一般公募では、僕自身がどれだけ良い作品ができたと思っても、選ばれるかどうかはわからない。審査の場に自分が行って説明することはできませんし、どういう方たちがどういう基準で選ぶのかがわからないのが難しいところです。デザイナーにもいろいろなタイプがいて、それこそ感性豊かで感覚的につくる人もいますが、僕はデザインに着手する前にまず分析をし、何が求められて、どういった基準でデザインしたらいいのかという情報の整理をしてからつくるタイプ。発注者とつくり手との言葉による共有を大事にし、双方が同じ位置で作品と対峙できるように言葉を合わせながらデザインする方なので、そういう点ではコンペや公募は僕にとっては難しいのです。なので、今回選んでいただいた連絡をもらったときはとても嬉しかったです。

―ロゴを制作するにあたり、どんな規定があったのでしょうか?

中川 そこが今回は面白くて。2019年に国際陸上競技連盟が「ワールドアスレティックス(日本語略称:世界陸連)」に名称を変更した際にロゴを一新しました。それに伴い、以降の世界陸連が主催する大会はすべて、そのロゴの外枠、つまり扇型を使うことが決まっています。今回も同様で、外枠の扇形と「WORLD ATHLETICS CHAMPIONSHIPS」とをいう文字を使用するのがテンプレートで、扇形の中と「TOKYO 25」の文字をデザインしてください、というのが要件でした。一般的なロゴの公募ですとデザインは自由なことが多いので、こういう決まりがあるはとても珍しいです。それ以外にロゴに求めるものとしては、具体的な言葉では「東京らしさ」「スポーツの躍動」といったものがありました。

PCの前でインタビューに応える中川さんの画像

PC画面に扇形とWORLD ATHLETICS CHAMPIONSHIPS TOKYO25と書かれているロゴの画像
この扇形に何を込めるか。
与えられた要件に面白さを感じた

―外枠が決まっているというのはやりにくいのではないでしょうか?

中川 決まった外枠にデザインするというのは初めての経験だったので、そこは悩みました。おそらく、他の応募者にとっても外枠をどう活かすのかが今回の課題だったのではないでしょうか。世界陸上の歴代のロゴを調べてみると、枠の中に例えば地図や土地の有名なものなどを入れているのがほとんど。色彩構成で見せているものも数点ありましたが、外枠が必然かというと・・・。それがルールだから中に何かを入れたように感じるものが多かったので、枠そのものも僕がデザインしたように見えるところまで作品を持っていこうと決めて制作していました。

 

日の丸、一番を目指す尊さ、多様性と調和

―デザインは実際にどのようにつくられていったのですか?

中川 「東京らしさ」の連想から、最初に“東京”の文字のデザインから入りました。文字から入る・・・というのは、僕自身が文字のデザインが好きというのがあります。東京を「TOKYO」とアルファベットにして、文字をストライプにして、ストライプの線を8~9本にしてトラックのレーンを表現して・・・。そうしたときに枠の中にTOKYOの5文字がうまく入りきらなかったので、思いついたのが“都市コード”。ロサンゼルスならLAX、ニューヨークならNYCと、世界の都市にはそれぞれアルファベット3文字で表す都市コードがあるんです。東京は『TYO』。外枠は45度の角度と正円で構成されているので、中に入れる要素も正円と45度の角度しか使わないように。TYOの形を組み替えたり、位置を変えたり、最終的にTYOの文字のどこを切りとるか・・・という調整をして出来上がりました。

PCの画面にTOKYOやTYOなどがいろいろなデザインで表現されている画像

―使用している色はどのようにして決めたのでしょうか?

中川 形がキレイなので、最初は1色でもいいかなとも思ったんです。でも、「日の丸」の“”は入れたくて。それでTYOの「O」に使いました。そして、陸上競技に限らず他のスポーツでも選手たちは、一番の“”を目指して努力しています。その切磋琢磨する姿こそがスポーツの素晴らしい価値なので、努力している人全員が金に値するという意味で使いました。
もう一つの“”は多様性と調和を表しています。参加する国々にはそれぞれカラーがあります。国旗の色、肌や髪の色などさまざまな色がある中で、世界の皆を表す色は何か?と問われるとそれは無いんですよね・・・。でも、いろいろな色を全部混ぜると最終的には黒になる。だからこそ、黒は多様性を、そして世界の人がつながり交ざり合う調和を表すのにふさわしいなと思いました。
赤や金は日本人が感じるお祭りの色合いでもあります。祝祭感、そして日本の伝統的な美も感じられる3色になりました。

―出来上がったときの感想を教えてください。

中川 扇子のような和のイメージもあるし、レーンをイメージしたストライプが繋がり合うところは、世界と東京が繋がる、また世界の人が東京に集う、というところを表現できたのではないかなと思います。日本らしさも感じられるデザインとなり、大満足です。

世界陸上のロゴ画像
テーマは「世界-東京-つながる。」
2025年の東京を象徴するデザインに

―シンプルでカッコいいですし、日本的な感じがします。

中川 あまり要素を入れていない点と、外枠と中の構想・構造がうまく合ったことで、シンプルな印象を受けるのだと思います。実際にそういった感想をいただくことが多いです。ロゴ発表イベントの際に、一緒に登壇したやり投の北口榛花選手から「新しい感じもするし、伝統がある感じもする」と言っていただいたのも嬉しかったですね。

ロゴ発表時の集合写真。左から有森裕子さん(日本陸上連盟副会長)、木村雅彦さん(東京2025世界陸上ロゴデザイン選定委員会委員長)、武市敬さん(東京2025世界陸上財団事務総長)、中川さん、小池百合子ささん(東京都知事)、北口榛花選手、橋岡優輝選手がロゴのパネルを持っている写真。
発表の場には北口榛花選手(やり投)・橋岡優輝選手(走幅跳)が登壇。 
「日本と陸上を象徴する素晴らしいロゴ」と語った
©東京2025世界陸上財団

―審査の場には立ち会えないというお話でしたが、今回、中川さんの作品が選ばれた理由は教えていただけたのでしょうか?

中川 はい、伺うことができました。カラフルなものや華やかなもの、イベント感があるのがいいね、という意見があった一方、アスリートの方が「ランナーにとってはスタートの瞬間に、それまでの時間がすべて凝縮されている。そして、その瞬間はものすごく静かで、5万人の観客がいても隣にいるランナーの心臓の音が聞こえるくらい。その静かで緊張感があるスタートの瞬間が一番好きで、スタートした瞬間に歓声がワァーと上がって、一瞬の静寂から今度はものすごい歓声に包まれる。100mだと9秒ちょっとで勝負がついてしまう、そのコントラストがいい」と。また、デザイン専門家の方が「ロゴデザインはメダルなど、立体物にも使われていく」と発言されたことから、華やかさだけを求めなくてもいいんだよねという議論になったそうです。そういった意味では僕がつくったロゴは緊張感や静寂の美しさみたいなものがある、ということになって。最終的に満票での受賞となったようです。その話を聞いて、選定委員の方々が「どういったものが東京2025世界陸上にふさわしいか」という観点できちんと話し合われたんだということを感じられて、その結果選んでいただいたことがとても嬉しかったですね。

こちらを向いて写真に写る中川さんの画像
躍動感とともにある一瞬の静寂。
陸上競技の多様な側面を表現

 

文字って自由にデザインできるんだ!

―子供の頃から絵を描くのが上手だったのでしょうか?

中川 絵を描くのは好きでした。幼稚園のとき、遠足で動物園に行き、帰ってきてから動物の絵を描いたんです。小さな僕はなぜか、動物を四角い箱の形にして描いたんですよ。どうしてそうしたかは記憶がないですけど、そのときは動物が箱に見えていたのでしょうね。そういう絵は珍しくて不思議なので、先生たちが褒めてくれて、その絵を幼稚園の入り口に飾ってくれました。それが嬉しかったのを今でも覚えています。けれど、決して上手ではなかったです。子供心にこの人うまいなって思う人がたくさんいましたから。

インタビューに応える中川さんの画像

幼少期の白黒写真。一つは階段で微笑んでいる小学校低学年くらいの中川さん。もう一つは幼稚園の運動会で走っている中川さんの画像。
動物を四角い箱の形にして描いたという幼少期。
この頃から「目」が違ったのか
※ご本人提供

―デザインに興味を持ったのはいつ頃ですか?

中川 小学校の高学年くらいです。両親が映画好きだったので子供の頃から映画館に連れて行ってくれて、内容がまだわからないうちから洋画も観させてくれていました。そうして観ているうちに映画が好きになって、小学校高学年くらいになると一人で映画館に行くようになっていたんです。映画を観るのと同じくらい、映画のチラシやポスター、パンフレットを集めるのも好きで。『スターウォーズ』や『ジョーズ』などのタイトルの文字を見て、文字って自由にデザインできるんだ!と思ったのがきっかけで文字のデザインが好きになったんです。いつか映画のポスターやパンフレットをデザインしたい、それがデザイナーになりたいと思った出発点ですね。すぐにお小遣いでレタリングの入門書も買って、文字を立体にデザインしたりしていました(笑)。

―いつか自分も大きなスポーツイベントのロゴに関わりたいと思っていたというお話をされていましたが、スポーツに関するデザインに興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか?

中川 僕が大学生の頃は、いわゆるナイキがスポーツメーカーで初めてストリートファッションを取り入れ、大手スポーツメーカーがマイケル・ジョーダンやタイガー・ウッズなどの有名なスポーツ選手と契約を結んでサブブランドを立ち上げ始めた頃なんです。そのときに、スポーツはこんなにデザインと親和性があって、スポーツシーンだけでなく、日常でも使えるんだということにとても感動したんです。それでスポーツの仕事をしたい!と思ったのがきっかけの一つです。
もう一つは、カール・ルイスが活躍した1984年のロサンゼルスオリンピックです。僕がそれまで見ていたオリンピックとは全く違って、それまでアマチュアスポーツの祭典だったのが商業的になり、プロも参加するスポーツの最大イベントになりました。それによってオリンピックの見せ方が変わったんです。ロゴもそうですし、目に入ってくるもの全てがカッコよくて・・・。それでオリンピックの仕事がしたいなと。スポーツメーカーに入って働くのか、また別のものかは決めていなかったけれど、大学生の頃にはスポーツ関係のデザインをしたいと思っていました。それで大学の卒業制作では架空のスポーツブランドをつくって、CI(コーポレートアイデンティティ)やVI(ビジュアルアイデンティティ)を考え、その企業が発売する商品のパッケージのデザイン、関連するポスターをつくったんです。その頃からずっとスポーツに関連したデザインの道に行きたいという思いはありました。

※CI(コーポレートアイデンティティ):企業文化を構築し、特性や独自性を統一されたイメージやデザイン、またわかりやすいメッセージで発信し社会と共有することで存在価値を高めていく企業戦略の一つ。
※VI(ビジュアルアイデンティティ):企業やブランドの価値やコンセプトを目に見える形にし、視覚を通してブランドメッセージを伝えるあらゆるデザイン要素。

インタビューに応える中川さんと壁の前で遠くを見つめている中川さんのコラージュ画像。

「オリンピックデザイン全史2」の本の画像
オリンピックが魅せてくれたデザインが
人生を動かすきっかけに
VSというアルファベットをメインにしたロゴで、さまざまなグッズに印刷した画像。
卒業制作でつくった架空のスポーツブランド。
「文字のデザイン」の片鱗

プロセスを踏み、人の心を動かすデザインへ

―卒業後は大阪のデザイン会社に就職していますが、そこではどんな仕事をしていたのでしょうか?

中川 大阪のデザイン会社に入ったのが、ちょうどソウルオリンピックのときで、クライアントにオリンピックのスポンサーになっている大阪のパナソニックがあったんです。オリンピックでは大会のエンブレムとパナソニックのロゴを一緒に使うケースがあり、その際のロゴの使い方の規定書をつくる必要がありました。その制作のアシスタントをして、すごく分厚いマニュアルをつくりました。大学を卒業したばかりの新人なのでこき使われて、毎日残業でしたが、とても楽しかったです(笑)。そのほかには、ポスターをつくったり、食品のパッケージやブランドのロゴをデザインしたり。在籍したのは約2年間ですが、デザイナーとして、また社会人としての基礎はその会社で学びました。実は奥さんと知り合ったのもその会社です(笑)。

―中川さんはロゴの作成やCI、VIまで手掛けていますが、どの仕事が一番好きですか?

中川 一番好きなのはやはりロゴのデザインの制作です。ロゴにも企業や商品などいろいろあって、その都度求められるものも要件も違ってきます。クライアントと話をして方向性を整理したうえでデザインして、その想いをロゴにグッと集約させていくんです。出来上がったロゴは、1年や2年で変わるのではなく何十年も世の中で生きていて欲しいので、できるだけ長持ちするものをつくりたいですし、長持ちさせたいですね。ただロゴだけでは伝わらない部分ももちろんあるので、ロゴの次は何をどうデザインしていこうかと、企業と顧客のタッチポイントを考えていくのですが、これもまた好きで。
会社のロゴは何でもいいっていう人もいますが、あのロゴがカッコいいからあの会社で働きたいと言う人も中にはいます。また、物を買うときでも同じものなら好きなロゴが入った商品を選ぶ人も・・・。ロゴには人の行動のモチベーションになる力があるところが魅力ですし、やりがいでもあります。

―いつかスポーツイベントのロゴを・・・という夢が今回叶いました。次の夢はなんですか?

中川 次にしたいことは、基本的には大会を成功させて、もう引退・・・というのは冗談で(笑)。肉体的にも精神的にも元気で、発注してくれる人がいる限りはデザインを続けたいです。やっぱりスポーツが好きなので、ずっとデザインでスポーツに関われたら嬉しいですね。
ほかには僕の経験を伝えていくことにも興味があります。デザインのやり方は教えられないのですが、デザインをするときに何を準備して何を整理すればいいのか、最後に自分の感性で仕上げるまでのプロセスを教えることはできます。デザインをしていると、前回は良いものができたけど、今回はうまくできなかったということもあります。でも、デザインをするプロセスをきっちりと自分のものにしておけば、その誤差はどんどん少なくなって、ほぼほぼ毎回きちんとできるようになるんです。逆にプロセスをきちんと自分のものにしておかないと一発勝負、賭けみたいになってしまいます。その経験とロジックを伝えることに興味があります。

大きな窓のそばにある柱に寄りかかって目の前にある国立競技場を眺めている中川さんの画像。
デザインでスポーツに関わり続けること。
自身の知見を後世に伝えていくこと

“美”=必要な要素を最低限のエレメントで表現

―中川さんはスポーツが好きですが、観るだけでなく実際にスポーツをしているのでしょうか?

中川 今はテニスとゴルフ、野球をだいたい週5でやっています(笑)。一人でできない競技ばかりですが、テニスもゴルフもマッチングアプリのようなものがあって、一緒にプレーする人を探せるので便利なんですよ。野球は自分のチームがあり、チームのSNSもユニフォームのデザインも僕が担当しています。スポーツはずっと好きで、高校時代は野球部に入っていましたし、大学時代は草野球のチームをつくっていました。社会人になって2年間働いたあと、ロンドンにデザインと英語を学ぶために留学したのですが、そのときもグローブとテニスラケットは必需品でした。向こうでは休みのたびに大きな公園に集まってソフトボールやテニスをしているので、入れてもらって一緒に楽しみましたね。そこで英語のコミュニケーション力もついたと思います。

野球チームの集合写真
自身がデザインしたユニフォーム
※ご本人提供
ロンドンのお店の前で撮った若い時の中川さんの写真とアパートの前で下から撮影した中川さんの画像のコラージュ
デザインを学ぶためにロンドンへ留学も
※ご本人提供

―中川さんが感じるスポーツの魅力はどんなところですか?

中川 スポーツはそれぞれルールがあって、その中で一番を決めます。競技によってはルールが複雑なものもありますが、そのなかで求められる結果は「早く走る」だったり「遠くに飛ばす」だったり、とてもシンプルです。そのシンプルさとルールの複雑さのなんとも言えない究極的なバランスに魅力を感じます。もう一つは、スポーツの中の美しさです。例えば速く走る人のフォームや、無駄のない体の動きにも惹かれます。また、今はパフォーマンスを向上させるために数値や映像で分析する時代で、それによって人間の限界がどこまでなのかが数値で表されています。その限界に挑戦するというところにも心を動かされますね。
時代が進み発展を遂げてきているからこそ、スポーツはもっと科学的で合理的なものだと思っています。まだまだ日本では根性論のようなものが残りがちで、非合理な考えが持ち出されていたりもしますよね。そのフェーズを超えて、より洗練された先に“美しさ”が宿るのではないでしょうか。

―スポーツにも惹かれるキーワードとして“美しさ”があるのですね。デザインに関しては中川さんが美しいと思うのはどういうものですか?

中川 個人的な好き嫌いも多分に入っていますが、シンプルなものが好きです。シンプルというのは、装飾的な意味合いをデザインに加えないということです。装飾が綺麗と思う人も世の中にはたくさんいますし、それはそれで一つです。僕が美しいと思うのは、必要な要素を最低限のエレメントで表現しているもの。突き詰めた『シンプル』が、美しいんです。

国立競技場を背に写真に写る中川さんの画像
整然とした考え方。
彼の中の“美”がその言葉からもイメージされる

とにかくSUGOI東京の9日間

―中川さんがデザインしたロゴが2025年の東京を彩ります。どんな大会になってほしいですか?

中川 無観客だったオリンピックを乗り越えて、東京2025世界陸上は新しくなった国立競技場で満員の観客を入れて、フルスペックで行われる大会です。基本的には大きなトラブルなく、9日間無事に完走してほしいです。そのうえで、世界記録がたくさん出て、日本選手が活躍したら嬉しいですね。僕は今、東京2025世界陸上財団にブランドディレクターとして在籍しているのですが、先日財団内で共有するものとしてコアバリューをつくったんです。大会に関わる財団の人たちは皆「良い大会にしたい」「多くの人を感動させたい」など同じ方向を向いていますが、その気持ちを表現する言葉にバラつきがありました。なので、ワークショップを開いて皆の気持ちを表す言葉を決めたんです。それが「とにかくSUGOI東京の9日間」。「こんにちは」や「ありがとう」のように、世界の人に「SUGOI」が広がる大会にしたい。「SUGOI=すごい」は「ファンタスティック」や「エクセレント」などいろいろな意味に使える言葉で、世界陸上を見た世界の人たちが、その言葉を覚えて口にできるような9日間になってほしいです。
「とにかくSUGOI東京の9日間」のイメージをさらに伝えるサブタイトルとして、「これを見たらあなたの心も体も動き出す」と続きます。そこには、世界陸上を見た人が例えば陸上を始めようかな、走ってみようかな、就職しようかな、恋人をつくろうかな、など何でもいいのでその人の生活に変化が生まれる、心と体が動きだすきっかけになってほしいという思いが込められています。それは僕がこの大会に期待することでもあります。

―最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

中川 東京2025世界陸上のチケットは先行販売ですでに15万枚ぐらい売れています(※取材日9月上旬時点)。一番安い席だと2025円からあって意外とリーズナブルですので、ぜひ国立競技場で観戦してほしいです。
陸上競技の場合、1種目だけでなく競技場のあちこちでいろいろな種目をほぼ同時に行っています。競技の準備をするボランティアや競技員の人たちの動きも無駄なくきびきびと動くところも面白いですし、槍や円盤を拾って元の位置に戻したりする自動掃除機みたいなロボットがフィールドを動き回っていたりもしています。競技はもちろんですが、そうしたテレビでは映らない面白い部分がたくさんあるので、チケットを買ってぜひ会場に観に来ていただけたら嬉しいです。

国立競技場の前でガッツポーズしている中川さんの画像

今大会のロゴがPCに表示されている画像

壁に寄りかかってこちらを向いている中川さんの画像

中川 亮(なかがわ りょう)/大阪府生まれ
クリエイティブディレクター・デザイナー

大阪芸術大学芸術学部デザイン学科卒業。大手 CI デザイン会社、ブランドコンサルティング会社勤務を経て 1998 年 DOT 設立。ブランドバリューの言語化、ネーミングからブランドストーリーを大切にした視覚化を得意とする。現在、公益財団法人東京2025世界陸上財団にてブランドディレクターを務める。

《東京2025世界陸上財団ニュース「「世界-東京-つながる」大会ロゴ発表イベントレポート」》
https://worldathletics.org/jp/competitions/world-athletics-championships/tokyo25/news/feature/logo-unveil-event

text by 木村 理恵子
photographs by 椋尾 詩

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