中川 亮(デザイナー)|「SUGOI」が世界の共通語になる大会に
2024.11.20
<h2><strong><ruby>那須<rt>なす</rt></ruby> <ruby>映里<rt>えり</rt></ruby><span style=”font-size: 12pt;”>さん</span></strong></h2>
<p>手話エンターテイナー/俳優</p>
<p><img class=”aligncenter size-full wp-image-3090″ src=”https://www.tokyoforward2025.metro.tokyo.lg.jp/wp-content/uploads/2024/03/7139bc4ca0085699db4221bc63705595-scaled.jpg” alt=”” width=”2560″ height=”1708″ /></p>
2024.03.04
手話に触れたことがあるなら、一度は見かけたにちがいない。
ドラマ、舞台、パフォーマンス、通訳、国際交流、イベント企画・・・。
強い使命感と熱い情動で動く那須 映里は、
決められた枠組みにはカテゴライズされない。
その手のひらからは、色とりどりのアイディアと希望があふれていく。
―那須さんのなされている「手話エンターテイナー」というお仕事は、どういうものでしょう?
那須 一言でいえば「手話表現」を生業としている、ということです。映像や字幕に手話をつける。舞台や演劇を手話で行う。きこえる人ときこえない人の交流の場を作る。すべてに共通するのは、《手話でみんなが楽しむ場をつくる》ということです。公演もやる・企画もやる・通訳もやる・・・と活動自体は多方面にありますけど、いろいろな活動を含めて「手話エンターテイナー」と言っています。自分で考えて、そう名乗ることを決めたんです。
―「手話エンターテイナー」として活動を始めたきっかけは何ですか?
那須 きっかけは二つあります。一つは、YouTuberのフィッシャーズさんと一緒に料理を作る番組があったんですね。ろう者と聴者が一緒になって、身振りやジェスチャーだけでやりとりするんです。食材を選んだり、作り方を説明したり、買い物に行く、実際作ってみる・・・そういう一連の動きを全部。そうすると、なかなか通じないところが出てきますよね。ただ、そのやりとりがおもしろくて視聴者にも楽しんでもらえたのを感じて。その経験から手話を使ってエンタメをつくっていける要素があることを感じたんです。それで私自身も、世の中に発信していきたいと思うようになりました。
もう一つは、世界ろう連盟の青年部のイベントでVV(ビジュアル・ヴァナキュラ―※の略)を演じたことです。それを機にもっとVVを見たいと出演依頼をいただくようになりました。手話での表現に加えて、より視覚的に伝わるオリジナルな表現をするようになったきっかけですね。
※ビジュアル・ヴァナキュラ―:手話特有のClassifier(クラシファイアー。以下、CL)という写像的に形状を伝える方法などを用いた、視覚的表現をするパフォーマンス。ジェスチャーともまた異なる表現方法。CLは他国同士でも共通している要素が多く、言葉を発せずに視覚的に表現するため手話が分からなくても楽しめる。
― VVについて教えてください。
那須 VVは、デフアートと呼ばれるパフォーマンスの一つです。より視覚的な表現で、世界中の誰が見てもわかることが基本なんです。例えば「東京」という日本手話(両手の親指・人差し指を 【レ】の形にさせて上に2回あげる)。知らない人にとってはわかりづらいですよね。「東京」とわかるように表現するにはどうしたらいいか。それをスカイツリーだったり「これぞ東京!」というものを視覚的に表現して、誰が見ても「ああこれは東京のことだな」とわかるように伝えるのがVVです。
私がヨーロッパにいたとき、夜のバーでVVをやっているのを見たのですが、突然「次はお前!」と指名されて即興でVVをやるんですよ。それがすごく面白かったんです。デフアートはもともと写実や情報の伝達というより、ろう者の気持ちを、その感じ方を含めて表現するもの。ろう者の人生、体験、育った環境、そういったさまざまなものから湧き出るすべてなんです。差別や苦しみ、人生経験を含めて生まれる表現です。手話を持って育った人は、表現も独特のものがあると思うんですね。歌に近いのかな、聴者にとっての。
―今年の5月にワシントンでVVイベントがあり出演されるそうですね。
那須 今からものすごく緊張してます・・・!(笑) 私は死や戦争といった系統のリアルな表現が得意分野なんです。でも、アメリカの場合は子どもが参加できるイベントは規制が厳しくて、血が流れるような映像はダメだったり、いろいろあるんですね。私のVVでも血が流れる表現はやらないでほしいそうなので、ちょっと内容を変えなきゃいけないなと。もうちょっと明るく、死とかに直結しない、少しぼやかすような感じですかね。得意の手を封じられちゃったので悩ましいですね(笑)。
”No more Hiroshima” Visual Vernacular
―テレビでよくお見かけしますが、舞台にも立っていらっしゃいますよね。
那須 ろう者が、聴者の舞台を台本や字幕を見ながら観劇するのってなかなか大変なんです。手話の舞台であれば、そのまま同時にリアルタイムに楽しめる。それから、聴者でも手話を勉強中の人もいますよね。例えば、英語を勉強中の人であれば、英語の劇を見て聴いて学ぶことがあると思いますが、手話劇も同じように、手話を勉強中の人が見て勉強になる側面もありますね。「ろう者や手話に対する理解促進」と「ろう者が芸術を見る機会を増やしたい」、この二つが私が舞台に立つ理由です。
私の周囲のろう者には、過去に「手話を使ってはいけない」と言われて育った方もいます。芸術を通して、あらためて手話自体の魅力を知ってもらいたいですし、もっともっと多くの方に広めていきたいですね。
―先日NHKで放送された「手話劇!夏の夜の夢」※は、手話を使う人もそうでない人も楽しめる内容でした。そこにはどんな工夫があったのでしょうか?
那須 まずはろう者の出演者で集まって、ろう者・聴者の演出チームが事前にチェックし制作した台本を、手話に翻訳しました。その手話を芝居と合わせてみて、合わないところがあればもう一度どういった手話が合いそうかを話しあう・・・、とにかくまずはろう者の中で手話表現を決めていったんです。その後、聴者との稽古に入りセリフを合わせてみました。そうすると「意外とタイミング早いな」とか「手話が遅いな」「あれ、ここは止まりたいのにズレるな」とか調整の必要が出てきたんです。稽古の中で他の出演者との動きを見ながら、それぞれの動きをお互いに見て、感じて、話し合って。ともにつくっていくという作業でした。
聴者のセリフのリズムや空気感。ろう者は自然とわかるんです。そろそろ来るな、みたいな。聴者も手話を見て自然にリズムをつかんでくる感じで・・・、息を合わせながら互いに慣れていった。手話の雰囲気や動きを目で見て、「今」っていうタイミングを合わせながら。
―役者の皆さんの息もぴったりでした。
那須 私もそうですが、今回の共演者は《余白》を大事にする方が多かったんです。事前に決めすぎないで、演じる中ですり合わせていくような。みんなで事前に細かく確認しようとした際に「必要ない。演技の中で生まれる、お互いの意思を尊重しましょう」って。現場で目を合わせながらつくっていったんです。
※手話劇!夏の夜の夢:NHKで放送された、シェイクスピア作のラブコメディー『夏の夜の夢』をろう者の俳優ときこえる俳優が共に演じた手話劇。手話と日本語、どちらの言語でも楽しめる名作劇の特別ドラマ。那須さんは、夜の森へ駆け落ちするハーミア役を熱演。
ドラマの舞台裏を描いた放送が前編3/6(水)・後編3/13(水)に、ドラマ本編の再放送が3/16(土)に予定。過去の放送を見逃した方も貴重な裏側から観られる、またとない機会・・・お見逃しなく!
NHK公式ウェブサイト: https://www.nhk.jp/p/ts/BXXQ5J7YNL/
―世界中のろうの青年を対象にしたリーダーシップ養成プログラム「Frontrunnners(フロントランナーズ)」の日本人第一号だそうですね。
那須 ろう者と聴者が対等な社会をともにつくっていく、それが私の活動の大きな目標の一つです。きこえる人が映画を観たいとき、思い立ったらすぐに行けますよね。でも、ろう者はすぐに行けないんです。字幕がなければわからないし、あったとしても上映数が少ないので、予定が合わせられなくて観に行けなかったり。こういうことがすべて対等で、平等な生活。その実現のためにやることは何か? まずは、手話への理解を広げることだと思っています。そして、ろう者はかわいそうだという見方を変えたい。
例えば自分がろう者であることを伝えるときに、私はきこえませんという意味で、両手で「バツ」をつくって伝えていたんです。でもそれって自分から「きこえないのが悪い」と言っているようなネガティブな表現ですよね。でも、フロントランナーズの授業で、そういった「ろう者が悪いもの」と見えてしまうような表現はしない方がいいということを教わったんです。日本人の私たちは無意識のうちに、ろう者自身がろう者の価値を下げるような行動をしてしまうことが多い、それを改めるべきだと教えられたんです。すごく腑に落ちましたし、反省しました。それからは耳が「不自由」な・・・のような表現を「ろう者」に置き換えるなど意識していますね。
―このプログラムへの参加は、今の那須さんの活動に大きく影響しているのではないでしょうか?
那須 そうですね、学んだことで大きな一つは「ロビー活動」。・・・と私は言っていますが、要は自分の叶えたい物事を実現するための周りの方との交渉、ですね。実現したときのメリットをうまく伝える、予算など何が懸念なのかをくみ取り、難しそうであれば代替案を提案してみたり。わからない人たちに対して、うまく理解してもらえるように説明していく。相手の考えや決定を変えていくための説明方法を、フロントランナーズでしっかりと勉強することができました。
「きこえる方がいいよね」「きこえない人はかわいそうだよね」。メディアも含めてまだそういった論調が多いと思います。それを変えていきたい。手話を使ってメディアに出るときに、表現の調整など、平等な社会の実現に向かわせていくために戦略的に交渉していくことが大切だと感じています。
―ベトナムが好きでよく行かれるそうですが、好きになったきっかけは?
那須 20歳のときに飲食店でバイトしていた頃、一緒のタイミングで入った子がベトナム人だったんです。ちょうどパリに旅行したいなと思っていたところで、テロが起こった関係で断念したところでした。そんなとき、ベトナム人の彼女と身振り手振り、筆談などでコミュニケーションをとる中で、「ベトナムおいでよ!」と言ってくれて。ベトナムに対しての知識はなかったんですが、それで行くことを決めちゃったんです。行ってみたらすごく面白くて、一瞬でハマってしまいました。
―どんなところが魅力ですか?
那須 食べ物が美味しいですし人もいいんですよ。おもしろいのは、ろう者の結束が強くてギュッとなっているところ。「知り合いの知り合い」みたいな直接つながりのない人でも、すぐにろう者同士で連絡を取り合ってつないでくれたり。家族のつながりはもちろんですが、社会的なつながりが本当に強くて。まさに「コミュニティ」として強いんです。
ベトナムではコミュニティに溶け込もうとする態度がなければ、受け入れられない傾向があります。例えば食事に呼ばれても、出されたものを食べなかったりすると、あなたはウェルカムじゃないという風になってしまうんですね。バロットというアヒルの孵化直前の卵の殻を割って中身を食べるものがあるんですが、オススメだからと言われて・・・。内心かなりきつかったんですが、食べましたよ。「大丈夫かな?骨まで食べて」とか考えながら(笑)。
でも、大事なのは合わせすぎないことでもあるんです。日本人として違和感があることは言う、人として違和感があることも言う。日本人だとお金持ちのように思われて、ご飯を奢って!と言われたりもするんですが、その理由をきく必要がありますよね。言われたまま払うのではなくて、平等な立場として、価値を交換しながらしっかり対話をしていくというのが大事だと思っています。
―国際手話もできる那須さんですが、いくつの手話言語を使えるんですか?
那須 レベルはまちまちですが・・・(少し考えて)日本手話、日本語、英語、ベトナム語、ベトナム手話、イタリア手話、デンマーク手話、フランス手話、韓国手話、韓国語、アメリカ手話、タイ手話、シンガポール手話、マレーシア手話、・・・そうするとラオス手話、カンボジア手話も入ってくるかな・・・台湾手話もあるかな。
―恐れ入りました!なぜそこまでの言語を覚えられたのでしょうか?
那須 やっぱり「自分の言葉で伝えたい」という思いが人一倍強いのかもしれません。その思いがあれば覚えるのなんて簡単・・・ということはないですが、社会的なインパクトを与えられる人材になるには国際的な会話力・対話力は必要だと思って。
―東京2025デフリンピックにどんなことを期待しますか?
那須 一つは手話通訳の地位向上ですね。聴者とろう者をつなぐ大事な存在です。そのためには手話言語法の施行もですが、給与体系が見直されて通訳業だけで生活できるような環境になってほしいです。
もう一つは、手話が飛び交う中でも一人ひとりが自然にコミュニケーションできる方法を身につけること。世界から1万人のろう者が東京に集まり、レストランやホテル、観光施設などさまざまな場所でろう者との交流機会が生まれます。そのとき、手話が使えなければ、筆談もあるし身振りだっていいんです。一人でも多くの方に壁を壊してもらって、柔軟なコミュニケーション力を身につけてもらえたら嬉しいですね。
あとは、これまで以上にろう者と聴者の団体が関わりあうことによる、お互いの発見や気づき。今までわからなかったことも、ろう者も聴者もお互いに学んで理解して、自然と一緒にやれるような交流の輪が増えていってほしいです。
100年の歴史で初めての日本での開催。東京2025デフリンピックは日本の皆さんはもちろんですが、世界中の方にデフリンピックを通して日本の、東京の魅力を発信していきたいですよね。開会式や閉会式では、ろう者の文化やアートをしっかり表現されたらいいな。デフリンピックという大きな舞台で、デフアートで東京を表現・・・。どんなことができるのか、今からワクワクします。やっぱりデフリンピックには「国を変える」力があると思うんです。トルコ、台湾、ブラジル。これまでの開催国と同じく、大会を通じて日本も変わっていきたいですね。
―那須さんご自身は、デフリンピックにどんなかかわり方をしたいですか?
那須 まずは全日本ろうあ連盟の登録国際手話通訳としての役割があるので、通訳として参加するのが一つのかかわり方です。その上で、手話エンターテイナーとして、エンターテイメントの部分でもしっかり参加していきたいです。あとは、世界中から訪れるたくさんのろう者に向けて、観光施設などに国際手話をつける支援をしていきたい。外国人ろう者向けに観光ツアーを組んで企画するのも楽しそうですよね!
那須 映里(なす えり)/東京生まれ
手話エンターテイナー/俳優
日本大学法学部新聞学科を卒業後、株式会社ボーダレス・ジャパンを経て2019年から2年間、デンマークにあるFrontrunnersに留学。ろう者のリーダーシップや組織活動について学ぶ。
帰国後、『手話エンターテイナー/俳優』を肩書に、「ビジュアル・ヴァナキュラー」パフォーマンスをはじめ、手話表現・翻訳・俳優としてフリーランスで活動中。NHK Eテレ『みんなの手話』、NHK E テレ『手話で楽しむみんなのテレビ』手話演者出演、手話普及活動、国際手話通訳、ろう者と聴者が交流する「ろうちょ~会」など、その活動は多岐にわたる。舞台『うごく作品』や2022年フジテレビ『silent』にも出演。
家族は全員がろう者の「デフファミリー」。父・英彰さん、母・善子さんは俳優業・キャスター業、また弟・元紀さんは映像制作会社に勤めるなど、家族全員がメディア関係の職業に従事している。
X:@Nsanakan78 (https://twitter.com/Nsanakan78)
Instagram:eri_ns.78(https://www.instagram.com/eri_ns.78/)
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