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陸上競技・赤松 諒一 | 「三刀流」ハイジャンパーは世界の舞台で飛躍する

2024.02.24

2023年7月に行われたトワイライト・ゲームスで、走高跳の赤松諒一選手は自己ベストを更新する2m30cmを跳び、日本人8人目となる“大台ジャンパー”入りを果たしました。その翌月に行われたブダペスト2023世界陸上でも決勝に進出。日本人2人目となる8位入賞という結果を出しました。赤松選手は競技のみならず、日ごろはITエンジニアとして働き、さらには岐阜大学医学部研究生という顔まで持っています。 “三刀流”として幅広いフィールドで活躍するハイジャンパーに、試合への向き合い方、東京2025世界陸上に懸ける思いを伺いました。

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赤松 諒一(あかまつ・りょういち)
1995年岐阜県生まれ。男子走高跳(2m30|日本歴代6位 ※2024年1月時点)。

岐阜県立加納高校、岐阜大学を経て岐阜大学大学院を卒業。
現在はアワーズに所属し、競技と研究の両立に取り組む。どのようなトレーニング手段を採用し、跳躍技術を改善できるかを学術論文などから学び取り、エビデンスに基づいたトレーニング計画の立案や技術の改変を行う。研究者として歩行バランスと転倒に関する論文を執筆しており、目標は医学博士号の取得。
パリ2024オリンピック、東京2025世界陸上での活躍を目標に日々のトレーニングに励んでいる。

 

バスケのレイアップシュートに似ていた感覚

――走高跳を始めたきっかけを教えてください。

中学まではバスケットボールをやっていました。高校でも体験入部はしたのですが、練習も厳しそうだったので、他の部活動も回ってみようと。その中で陸上競技部は面白そうだし、雰囲気も良かったので入部することにしました。最初は短距離走や走幅跳なども練習していましたが、走高跳をやってみたところ、顧問の方から「お前は走高跳をやった方がいい」と言われたんです。もともとバスケをやっていたので、レイアップシュートのカーブを描いて踏み切るという感覚が似ていたし、浮く感覚も楽しくて「やってみよう」という気持ちになりました。

――ご自身のどういう特長が走高跳に向いていると感じますか?

走高跳は筋肉量を増やし過ぎると体重が重くなって跳べなくなります。僕は少ない筋肉量でも大きな力を発揮しやすい筋肉で、体重も含めて競技に向いている体型(183cm、61kg)だと思っています。そこが強みの一つにもなっています。

高校で出会った走高跳。
自身を「競技に向いている体型」と語る

――走高跳で世界を目指そうと思ったのはいつくらいですか?

大学2年次に日本学生陸上競技対校選手権大会で2m25cmを跳んで優勝しました。日本陸上競技選手権大会も出場できましたし、世界の舞台で活躍することを目標にしたのはその頃からですかね。

 

走高跳、ITエンジニア、医学部研究生という三つの顔

――岐阜大学に進学されていますが、他の強豪大学から誘いもあったと思います。なぜ岐阜大学を選んだのでしょうか?

他の大学からもお声がけいただいたのですが、陸上は個人競技なので、基本的に練習は一人で積み上げていくものだと思っています。だからどこでもできるかなというのが自分の中にありました。岐阜大学にも強い選手がいましたし、出身も岐阜ということで、一般受験で入学しました。あとは競技以外のことも考えての選択でしたね。昔から人に教えることが好きだったので、教員という職業に興味を持っていたんです。教育学部に入り、体育の教員免許を取得して、競技を辞めたあとは教員に転向できる道も持っておきたかった、というのも理由の一つです。

――現在は競技で走高跳、お仕事でITエンジニア、さらに岐阜大学で医学部研究生と、「三刀流」の生活を送られているようですが、どういう意図があるのでしょうか?

まずITエンジニアですが、所属企業で携わっている仕事であり、プログラマーと顧客の間に入り、提案やそれに伴うコミュニケーションを円滑にする調整を行っています。医学部での研究生については弊社が医療系の事業にも携わっているので、その関係で整形外科の研究室に所属させてもらっています。そこで研究しているのは「歩行と転倒」の関係です。転倒予防のシステムを作っていきたいと思っていて、医学的な部分を調べていくと、アスリートとしても役に立つことがあるので、そういう意味ではいろいろと関連していますね。
加えて引退後のキャリアも考えていて、競技以外にもより幅広く知見を高められるように、様々なことに挑戦したいと思っています。跳躍種目は練習を毎日長い時間行うわけではないので、空き時間に自分のためになることを日々探しながら取り組んでいます。

三つの顔のうちの一つ「ITエンジニア」

試合で失敗しても落ち込まず、その理由を考える

――日本記録は戸邉直人選手が保持する2m35cmです。昨年7月に2m30cmを跳び、今後目標となる記録かと思いますが、それを超えるために何を改善すべきだと考えていらっしゃいますか?

助走をもう少しスムーズにしていくこと、踏み切りのインパクトを強めるところだと思っています。跳躍に影響してくるのは踏み切る前のスピードと、上に跳ぶときの初速です。それを上げるには、助走に入ったときの水平方向のスピードをしっかり出して、踏み切ったとき上に跳ぶ初速にどう変換するか。その効率を良くするために、地面との接地時間をできるだけ短くして、地面を下にとらえ、上に押していけるような踏み切りにしていければ、さらに記録は伸びると考えています。

――踏み切りを強化するためには、具体的にどのようなトレーニングをしていくのですか?

冬季は筋肉量を増やすために、パワー系のトレーニングをします。踏み切りで地面に接地する時間は0.18秒くらいなのですが、筋肉量を増やして、その間の動作で使える筋肉にしていくプライオメトリックトレーニングやドロップジャンプなどはやっていこうと思っています。

――記録と向き合うことは、苦しいことでもあるかと思います。ご自身のメンタル面はどうケアしていますか?

僕は試合で失敗してもそんなに落ち込むことはないんですね。それよりもなぜ失敗したのかをすぐに考えます。試合では、いつでも自己ベストを狙えるように万全の状態で臨む必要があると思っていて、うまくいかなかったときは必ず何か理由がある。それを考えて、何か見つかったときは次のトレーニング計画に反映していきます。そういうサイクルを繰り返していかないと、より良いパフォーマンスは生まれないと思っています。

練習中も明るく柔和な表情を見せる赤松選手

世界陸上は一番重要で大きな目標となる大会

――ブダペスト2023世界陸上では日本人2人目となる8位入賞を果たしました。決勝の舞台を経験して感じたことは何かありますか?

上位に入る選手は本番にフォーカスを当ててきているなと感じました。予選から中1日で決勝というスケジュールでしたが、予選と比べて一段ギアを上げてくる選手が多かった。僕は初の決勝だったので、予選通過にすべての力を入れてしまった部分もありました。もちろん手を抜ける舞台でもないので、予選から全力を出さないといけないのですが、その先も見据えて、一本一本の跳躍を考えていく必要があると思いました。

――世界陸上は赤松選手にとってどのような場所だと感じますか?

陸上競技の中で一番重要かつ大きな目標となる大会だと思っています。世界陸上やオリンピックが開催される年は、その大会に出場すること、そこで活躍することを目標にやっていますし、良い結果を出すために何をしたらいいのかを考えながら、日々の練習を積み重ねています。

満員の会場で予選1位通過の跳躍を魅せたブダペスト2023世界陸上
© Getty Images for World Athletics

――パリ2024オリンピックと東京2025世界陸上の目標はどこに置いていますか?

パリ2024オリンピックに出場するためには、世界ランキングで上位に入るか参加標準記録を突破するかになります。参加標準記録が2m33cmと高めに設定されていますが、これを突破して出場するか、ランキングで拾われて出場するかでは心の持ちようも変わってくる。2m33cmを跳んで、上位に入賞する力があるんだと自信を持って乗り込みたいですね。
ブダペスト2023世界陸上での8位入賞を超えて、パリではメダルを狙いたい。今年の結果によって来年の目標は変わってくると思いますが、東京2025世界陸上ではパリ2024オリンピックを上回る結果を残したいです。

――東京2025世界陸上で楽しみにしていることや、期待していることがあったら教えてください。

僕にとっては東京2020オリンピックに出場することができなかったこともあり、日本で世界陸上が開催されることは大きな意味を持っています。自国開催ということで、より一層力が入りますし、そこに向けてしっかり準備をしていきたいです。日本のお客さんも多いでしょうし、みなさんに拍手を求めたときに、全員が注目してくれるようなパフォーマンスをしたいですね。

すぐに「理由」を分析し、より高く飛ぶための改善を繰り返す

たき火を囲んで話すのが楽しい

――ここからは赤松さんのパーソナルな部分をお伺いします。休日はどのように過ごされていることが多いですか?

最近だとキャンプによく行っています。自分でテントも買いましたし、岐阜はキャンプ場が多いので、いろいろなところに行っています。家ではゲームをやったり、ピアノもあるのでそれを弾いたりしていますね。常に何曲かは弾けるようにしています(笑)。

――キャンプは主にどこでするのですか?

(岐阜県の)明宝の方ですね。山の上にあるので夏でも涼しくて過ごしやすいです。夜は寒いぐらいだったので、寝袋に入って寝ました。

――キャンプはご友人の方たちと一緒に行かれるのですか?

そうですね。一人では行ったことがなくて、いつも誰かと一緒に行きます。(出身の)加納高校の陸上部だった友人や、陸上とは全然関係ない友人と行ったりもします。

――キャンプのどういうところに楽しさを感じますか?

岐阜だとキャンプくらいしかやることがないんですよね(笑)。それは冗談として、みんなで集まって、夜にたき火を囲んで話をするのが楽しいです。飲み屋で話をするよりも、その方が面白いなと。

 

ピアノで弾いてみたい曲はKing Gnuの「白日」

――ゲームも好きということですが、SNSでポケモンGOをやられているのを拝見しました。

会社の駐車場から事務所に行くまでの5分くらいでできるのでやっています。隙間時間でできるのがいいですよね。昨年の杭州アジア大会に出場したとき、110mハードルの高山峻野選手や石川周平選手がホテルでポケモンカードをやっていたのを見て、そこからポケモン界に入り込んでいった感じですね(笑)。

――ピアノを始めたのはいつからですか?

3歳からです。姉が習っていて、「僕も行きたい!」と言ったところから。中学生くらいまでしっかり習っていたんですよ。今はカッコいい曲を見つけては弾いている感じですね。ジャンルはバラバラで、弾けるようになるたびにどんどん忘れていってしまうので、常に弾けるのは数曲しかないですが(笑)。ピアノで弾いている曲をYouTubeで見つけて、それを弾いてみたり。父がジャズのドラムをやっているので、ジャズも弾きます。あとはクラシックやゲームミュージック。何でもありですね。

――最近弾いてみたいと思った曲はありますか?

King Gnuの「白日」は挑戦してみたいです。カッコよくピアノでアレンジしたものがYouTubeに上がっていたのを見て、これは弾いてみたい!と思いました。

――まさか耳コピで・・・?

だいだいそうですね。僕はあまり楽譜が読めないので(笑)。耳できいて、手の動きを見て弾くことが多いです。楽譜を見るよりその方が覚えるのが早いんですよ。でも1曲覚えようと思うと、10時間くらい練習する必要があるので大変なんです。

ピアノを弾く赤松選手。もはや四刀流・・・?

アジア大会で知り合った選手の試合を見に行きたい

――ご自身以外で、おすすめの選手を紹介するならどなたですか?

日本の走高跳は戸邉直人選手と衛藤昂選手がずっと牽引してきました。戸邉選手は博士号を持っていて、僕も目指しているところであり、続いていきたいですね。お二人はケガから今年復帰して、オリンピック出場を目指すとおっしゃっているので、強力なライバルになると思います。

――ご自身の性格はどのように分析されていますか?

小さい頃は人見知りだったのですが、人と接することが多くなってからはその楽しさを覚えましたし、物事への興味も強くなったと思います。陸上競技以外の他のスポーツでも、知り合いがいると気になりますし、試合も見に行きたくなるんです。興味を持ったことに関してはもっと知りたくなるので、ベクトルは外に向いていますね。

――他に興味を持った競技はありますか?

最近スカッシュの杉本梨沙選手と知り合ったので、今度試合を見に行こうと思っています。杉本選手もアジア大会に出場されていて、たまたまお話できる機会があって。僕が出場していた日本選手権も見に来てくれたこともあり、僕もスカッシュの試合を見に行きたいなと。杉本選手はトップレベルで活躍されている方なので、ルールも含めて教えてもらいたいですね。

――興味や関心を持たれる幅が本当に広いですね。

そうですね(笑)。やっぱりいろいろな方や物事に触れることで、楽しいと思えることが増えるのはもちろんですが、考え方や生き方の選択肢が増えていきますよね。そういった意識が競技にも活きてきていますし、人生が豊かになるよなと思っています。

――最後に東京2025世界陸上を楽しみにしている読者の皆さんへメッセージをお願いします。

東京2025世界陸上には僕もぜひ出場して活躍したいと思っています。みなさんの応援を力に変えて、素晴らしいパフォーマンスをお届けしますので、ぜひ国立競技場で応援していただけると大変うれしいです。よろしくお願いします!

X:@Ryo1_Akama2
Instagram:ryo1_akama2

text by Moritaka Ohashi
photographs by HARUKI OMAE

共同制作:公益財団法人東京2025世界陸上財団

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