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『音のない世界と “つながる”』 デフリンピック555日前を彩ったスペシャルトークショーの様子をお届け

2024.05.22

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ろう者・CODA・聴者、音のない世界を取り巻くそれぞれのリアルと本音

2024年5月9日。東京2025デフリンピック開催555日前の一夜を彩るスペシャルトークショー『音のない世界と “つながる”』を開催しました。

トークショーのゲストは、ご両親がろう者のCODA(コーダ)の作家・五十嵐大さん。デフバレーボール女子日本代表・中田美緒選手。そして東京2025デフリンピック応援アンバサダーの朝原宣治さんが登壇。 満員の客席から、盛大な手話の拍手で迎えられました。

手話の拍手が一面に広がった、満員の会場

耳がきこえないのは見てわからない

ろう者と聴者のコミュニケーションやろう文化について。そして、来たる東京2025デフリンピックへの想いなど、このゲストの皆さんだからこそ語れるお話をお届け…と銘打ったこのトークショー。
「私にはまだ理解の及ばないところがある」。そう口火を切ったのは、これまでろう者の方とあまり接点が無かったという朝原さん。観客の皆さんとともに、まさに”つながる”ための一夜が始まりました。

「お二人の話をきくのが楽しみだった」と語る朝原さん

現在、デフバレーボール女子日本代表の主力としてチームを引っ張る中田さん。中学生時に転校したろう学校で、それまで続けていた大好きなサッカー部が無く、4種類しかなかった部活から「これしか残らなかった」と選んだのがバレーボールでした。
その中でも持ち前のポテンシャルを発揮し、若干15歳でデフバレーボール女子日本代表に初招集。 高校1年生で出場したデフバレーボール世界選手権でベストサーバー賞を受賞。翌年のサムスン2017デフリンピックではチームを金メダルに導きました。

高い競技レベルでバレーボールに取り組む中田さんは、国内屈指の強豪・東海大学へ進学。当時、きこえない選手がバレーボール部に入ったのは初めてのこと。「友達同士で楽しくおしゃべりしたり、一緒にご飯を食べたりという機会を持つことができなかった」、コミュニケーションが満足に取られない状況に「大好きなバレーを辞めたい」とまで思ったといいます。
「耳がきこえないというのは、目で見てわかる障害ではない」。少しでも自身を理解してもらうため、パワーポイントで資料を作って監督に説明。チームメイトにもバレーボールに関する手話を覚えてもらうなど、「4年間かけて少しずつ理解してもらった」ことで、環境を変えていった経験を語ってくれました。

環境を変えるために、理解を求め働きかけた中田選手

「チームメイトとコミュニケーションが取れないのって、すごく寂しいんですよ」と、ドイツに留学したときの思いを振り返った朝原さん。まったくドイツ語がわからず、「声は出て耳もきこえるのに何も言っていることがわからない」状態。コミュニケーションを取るということが「(競技においても日々の生活においても)すごく大事なこと」だと実感したと語りました。

「互いに歩み寄る」ということ

ご両親がろう者のコーダであり、「きこえない世界も知っているし、きこえる世界も知っているし、その狭間にいるような生き方」をしてきたという五十嵐さん。吉沢亮さん主演で9月に実写映画化が決まった『ぼくが生きている、ふたつの世界』の原作である、きこえないご両親との実録ノンフィクション『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』の著者です。

ろう者とのコミュニケーションについて、「まずは怖がらないこと」。手話ができないのであれば、音声アプリや筆談でもいいし、それで簡単なコミュニケーションは取れる。ただ、その手段は「結局ろうの人たちにとっては負担が大きい。彼らがこっちに歩み寄ってくれているということを忘れちゃいけない」と五十嵐さんは語気を強めます。
では、きこえる人がろう者に歩み寄るというのはどういうことなのか。「やっぱりろう者の第一言語である手話を覚えること」だとは思いつつ、手話は言語であり一朝一夕では習得しきれないもの。だけど英語で簡単なあいさつや会話ができる人が多いように、「手話でもまずは簡単な単語を一つでも覚えてみてほしい」。最初は筆談などできっかけをつくり、「親しくなる中でこっそり手話を勉強して、”実は手話も勉強しているんだよね”とすると、たぶんすごく信頼してもらえる。それで初めて対等なコミュニケーションになる」と伝えました。

どちらの世界も知る五十嵐さん。
対等なコミュニケーションとは…

初めて行く場所では、「先に耳がきこえないことを伝えてからコミュニケーションを始める」ようにしている中田さん。最初は必ず困ったような様子になるため、「文字に書いてください」「口を大きく動かして話してください」と、どうしたらコミュニケーションが取れるのかを提案します。それでも、やはり一番うれしいのは「“ありがとう”だけでもいいから、手話で表現してもらえること」だと語りました。

ただし、きこえない人の言語はたしかに手話なのですが、「きこえない人がみんな手話をできるというわけではない。難聴者と呼ばれる方々の中には手話ができない方もいる」と、中田さんは言葉をつづけます。そのため、きこえない人と出会った際には手話のみにこだわらず、身振りだったり筆談だったり、「目で見える方法で伝えてもらえれば、そこからコミュニケーションを始めることができる」。だから、「遠慮せず、同じ人間として、お互いに歩み寄っていけるような方法を考えていただけると嬉しい」と思いを伝えてくれました。

ゲストが語る思いに、耳と目をしっかりと向ける客席

お二人の話を受けて朝原さんは、障害者の方に対して「どう接していいのか、どこまで突っ込んでいろいろやっていいのか。それが怖いというよりも、失礼に当たるんじゃないかなと遠慮してしまったところがあった」という。そのような思いがあった中で、パラリンピックをきっかけに車いすの方と交流を持ったことで、それまでの考え方に変化が生まれました。
「実際に当事者として触れ合うと、これまで見えなかった障害者の方が見えるようになる」。今まで周囲にきこえない方がいなかったという朝原さんも、「きこえない方との実際の交流を通して、周囲で手話をしている方にも目がいくようになった」。まずは知ることであり、そして関心を向けてみること。「意識が入ってくることがすごく大事」と強調しました。

デフスポーツを支えるのは「目」

デフスポーツでのコミュニケーションについて話題がうつると、中田さんからデフバレーボールの特徴について。無音でプレーする中、セッターとしてアタッカーにトスを上げる役割の中田さんは、「ボールが上がった瞬間にチームメイト全体の様子を見る。そのとき、 それぞれの選手がサインを目で見える形で出しているので、そのサインを見て誰にトスを出すか決めている」とのこと。
サインは事前にチームでルールを決めるのですが、「今、代表合宿は月一回ほどしか集まれない。限られた時間の中で、このパターンではだれが行くのか、こういう流れになったらどうするのかということをしっかりと確認」しています。
スピード感のあるバレーボールでの一瞬の判断に対し、「正直想像がつかない」と驚きを隠せない五十嵐さん。アスリートである朝原さんも、きこえない選手の『目』の卓越性に、思わず感心の笑みがこぼれてしまいました。

思わず笑ってしまう朝原さんと五十嵐さん

試合中はボールだけを見ているわけではなく、「チームメイトの動きを細かく、視野を広くして見ている」という。そのため、コート上ではアイコンタクトが非常に大事になるので、「視線が逸れたときには必ず注意を引くようにしている。そのときの表情なども大事」と、競技の上での重要なポイントについて教えてくれました。

東京が「マイノリティとされる人たちでも生きやすい」街に

トークショーの最後には、来たる2025年について。
100年目の記念大会で初の日本開催となる東京2025デフリンピックを通して、「きこえない子供たちのロールモデルになりたい。記憶に残るような大会にできれば」と強い思いを持つ中田さん。
しかしながら、オリンピックやパラリンピックに比べて、デフリンピックは知名度が低いのが現状。より多くの方々に知ってもらうために「自分自身が結果を出すということも大切」と語った上で、「デフリンピックをきっかけに社会の見え方が変わってくることもたくさんある。デフリンピックを知って終わりではなく、その先のつながりを広められるように」。「”デフリンピックがあるんだな”というように社会が変わっていけたら」と2025年のその先にも向けた期待を語りました。

2007年に地元の大阪で開催された世界陸上に出場した朝原さんからは、「先輩としてアドバイスすると、多くの選手が気負いすぎて失敗した。自国開催だから…、自分がどうにかしなくちゃ…と強く思いすぎないように。僕は素直に応援の力を受けたいなと思っていた。ぜひそういうパワーを自分の力にして、せっかくの機会を目一杯楽しんでもらいたい。その姿を見て、皆さんがもっと応援してくれるようになるから」と力強いエールが送られました。

デフリンピックや自身の映画を通して、多くの人に手話やろう文化、あるいはコーダの存在を知ってもらうきっかけにはなる。「ただ、知って終わってしまうというのをこれまでの歴史の中で何十回も繰り返してきた。テレビドラマで感動的なろう者と聴者のラブストーリーみたいなのが流行っても、3ヶ月後にはみんな忘れてしまっている」と現実を示す五十嵐さん。
この2025年の国際的イベントを通して届いた先に願うのは、「今までみたいに”消費して終わり”ではなく、もしかしたら自分の周りにろう者がいるかもしれないとか、これをきっかけに簡単な自己紹介ぐらいは手話でできるようになってみようとか。あるいは、自分が今通勤で使っている駅って、ろう者にとって本当に優しくできているんだっけ、という視点を持つとか。知ったことを機に、何か日常の目線を変えていってほしい」ということ。そうして「一人ひとりが小さく変化した先に、東京がそういう“マイノリティとされる人たち”でも生きやすい街になると思う。それを、一番に願っています」。

あっという間に時間が過ぎ、気づけば終わりを迎えてしまったスペシャルトークショー『音のない世界と “つながる”』。
2025年に向け、そしてその先へ。それぞれの立場で大会を、社会を盛り上げていけるように。
一緒に楽しみましょう!

・・・そして!
今回の素敵なお話をご参加いただいた方々だけでなく、より多くの皆さんに届けたく…。

フルVerのアーカイブ映像を後日公開しました!
このレポート以上に濃い~お話を余すことなく。ぜひご覧ください。

 

特設企画展示は5月30日まで‼※終了しました

会場となった東京都立中央図書館では、『音のない世界と “つながる”』特設企画展示を開催中です。
ドラマ「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」の台本など、ここでしか見られない資料を展示しています♪
今なら東京2025デフリンピック大会エンブレムのピンバッチも配布していますので、まだの方はぜひお越しください!

■ 期 間:令和6年5月9日(木)~30日(木)
      平日10:00~21:00、土日祝10:00~17:30
      ※5月17日(金)は休館日
■ 場 所: 東京都立中央図書館 1階「中央ホール」(〒106-8575 東京都港区南麻布5-7-13)
■ 入場料: 無料
■ 協 力: 東京都立中央図書館、東京都聴覚障害者連盟

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