さとり(スターバックス コーヒー nonowa国立店ASM)|大好きな自分で、光り輝くために
2024.10.22
TWOLAPS代表
2024.04.03
日本の陸上競技界でも異端の存在だ。
男子800mの元日本記録保持者で、オリンピックや世界陸上にも出場した経歴を持ちながら、アメリカで公認会計士の資格を取得。
現役時代はコーチをつけず、自ら考え、競技力を伸ばしてきた。
その“思考力”が生み出した、日本で唯一の中長距離トラッククラブが「TWOLAPS TRACK CLUB」だ。
経営者としても辣腕を振るう横田が考える、陸上競技のこれから、そしてスポーツが持つ価値とは。
―2016年に現役を引退し、その翌年にNIKE TOKYO TCのヘッドコーチに就任されています。どのような考えでこの決断をされたのでしょうか?
横田 セカンドキャリアを考えて大学院に行く準備をしていたのですが、たまたまNIKEから、アメリカにあるような中長距離のクラブチームを日本で立ち上げないか、とお話をいただきました。優秀なコーチは日本にもたくさんいますし、元々コーチになりたいという思いはなかったんですけどね。ただ、駅伝やマラソンは人気コンテンツなのに、トラック競技は盛り上がらない。その理由を考えたときに、商業的に成功させないと持続的な競技の発展はない、と現役時代から問題意識を持っていました。競技力向上やメダルといった結果だけではなく、競技の普及や価値をビジネスとして社会に還元していく。それをNIKE TOKYO TCで実現できたら楽しそうだなと感じて始めました。
―その後、2020年1月にTWOLAPS TCを立ち上げています。それに至った経緯と理由を教えてください。
横田 NIKE TOKYO TCはビジネスの構造としてNIKEに依存する形だったので、その中で僕が目指していたものと少しギャップが生まれてきました。逆に自分のやりたいことはどういう形だったらできるのか。そう考えたときに、選手それぞれにスポンサーを付けたり、大会というコンテンツをつくってスポンサーとつながったりと、一つの企業に依存せず、行政も含めていろいろな力を借りながら形成していくのがベストだと思い、TWOLAPS TCを立ち上げたんです。NIKE TOKYO TCでの学びが、間違いなく今のTWOLAPS TCというチームに生きていますね。
―横田さんが目指していた形は具体的にどのようなものだったのでしょうか?
横田 どのスポーツでも大会が価値の中心になると思っています。どうやったら魅力的な大会になり、お金や注目が集まってくるのか。そこから発想していきました。ただ当初は大会をつくるのは難しいと思っていたので、まずはチームをブランディングして、ファンづくりをやっていこうと考えていました。それで2020年にTWOLAPS TCを立ち上げたのですが、それからすぐにコロナ禍となってしまい、中高生の大会がなくなってしまったんですよね。そこで僕らが着手したのが「バーチャル」での大会づくりでした。ランナーが走っている動画をアップできるシステムを構築し、バーチャルでタイムを競う大会を開催したんです。それが少なからず話題になり、予定外の状況にも良き形でスタートを切ることができました。
そして満を持して、2021年にリアルでの中距離大会「MDC(ミドルディスタンス・サーキット)」を立ち上げました。世界最高峰のグラスルーツレースを目指す大会であり、4年目を迎え規模も徐々に広がってきています。ポジティブな意見もネガティブな意見もたくさんいただいてきましたが、「こんなの陸上競技じゃない」と言われたときは、良い方向に進んでいると思いましたね。
―陸上競技でも各種さまざまな大会があります。そういう大会とは異なるものをつくりたいと考えたのですか?
横田 陸上競技の大会は面白い構造になっていて、誰がお客さんなのかを考えると難しい。例えば東京マラソンだったら、お客さんはランナーです。3万人ほどが参加して、参加費を払う。陸上競技の他の大会も基本的な構造は一緒なんですよね。
でも、それ以上の広がりがない。どのスポーツも「する人」「観る人」「支える人」といろいろな方がいる。その中でも『観る人』への訴求が日本の陸上競技ではできていないんです。それは大きな課題だと感じています。TWOLAPS TCでは、どうやったら自分たちの競技を面白く見せられるのかを追求していきたいと思っています。
―どうすればそれが実現できるのでしょうか?
横田 そのためには、何を大事にしている大会なのかを明確にすることが重要です。僕は日本陸上競技連盟でも役職に就いていますが、そこでも、競技志向の大会なのか、それともエンタメ志向の大会なのか、観る人へ分かりやすくカテゴライズして訴求していく必要があるということを伝えています。TWOLAPS TCは本当に観る人を重視しています。中距離でできたら他の種目でも広げていけるという思いもあり、今はそこに注力してやっていますね。
―エンタメ志向の大会というのは具体的にどういう大会になるのでしょうか?
横田 ちょっとしたことから始めればいいんですよ。例えば、野球だったら間隔を短くするために、1球にかける時間を減らしています。観る人にとって我慢できる時間はおそらく2時間程度かと思います。陸上競技でいうと日本だと8時、8時10分というようにキリの良い時間で切りますよね。実際の競技時間に合わせて8時7分、12分というような切り方ができずに。それで観る人にとっての「何もない時間」が生まれることが分かっているのに。でも海外ではそれを当然にやる。何もない時間があること自体、観る人にとっては良くないので、それを減らすだけでも全然違うと思いますね。
また、同時に複数の競技が行われることも良くない。これは観る人にとっても競技をする人にとっても、良い体験ではないなと思っています。日本記録が同じ瞬間に出たときに、人の目はどちらに行くか分からないですよね。その一瞬に懸けてきたアスリートに対しても、その演出はどうなのか。陸上競技の大きな特徴としてある慣習なのは理解しつつも、種目別に進行するというのは大いにありだと思っています。
―確かに競技場やテレビで観ていても、同時進行でやっていると分からないというのはありますね。
横田 スポーツで大事なのは、ライトな層をどれだけ巻き込めるか。競技への知見も関心も高くない、けれど会場に足を運んできてくれた人たちに分かりやすく「また来たい」と思ってもらえるように、競技場の中でも工夫していく必要がある。今の日本の陸上界では詰め切れていないところを、TWOLAPS TCがつくっていきたいですね。
―TWOLAPS TCの運営方針として最も大事にしていることは何ですか?
横田 一つは、選手自身の目標や競技する目的を最適化、最大化させるためにサポートするということ。もう一つは、陸上競技というスポーツで、マネタイズする仕組みを作ることです。陸上で価値をつくり、走ることをコンテンツ化する。そして地域の人とつながり、地域の人が企業とつながる。それが新しい価値になっていき、経済活動がどんどん生まれてくる。僕らがその先駆けになりたいと思っています。アスリートが持っているアセットを例にすると、トレーニングのノウハウを市民ランナーやキッズのスクールに還元していく。栄養面では、アスリートが食べているものを地域の人に紹介していく。スポーツの価値は人と人がつながることだと僕は思っていて、その「つながり」を生み出す場づくりこそがTWOLAPS TCが目指すものです。
―選手から競技引退後のキャリアの相談を受けることも多いと思いますが、どのようにサポートをしているのでしょうか?
横田 僕がいつも言っているのは、「キャリアをファーストとセカンドに区切るな」ということ。選手として生きているうちに、なぜ自分は競技をやっているのか、どういうメッセージを社会に伝えたいのかを明確にしておく必要があると思っています。うちのチームの新谷仁美(ロンドン2012、東京2020オリンピックに出場)だったら、正しい栄養の知識や女性アスリートが抱える健康の問題、競技との向き合い方は、彼女が結果を出して伝えたいことの一つです。それをサポートしてくれる企業と一緒に組む。そうやって競技を通して何かを発信していく形で社会との接点を持てば、自然と自分たちの価値を社会に還元していくことができる。お金を稼ぐためには、スポーツに限らず、何に価値を感じてもらえるかを考えて行動することが重要です。それを実践していけば、キャリアがそのまま線でつながるかもしれない。もしつながらなくても考えて行動した結果であれば、その次のキャリアに生きていきますよね。
―自分で考えて行動した結果、得られた経験は何かに役立つこともありますよね。
横田 TWOLAPS TCにいた学生も新卒で大手企業に入社していたりします。うちでは大会づくりの中で経理などの経験も詰めるので、就職してもそれが普通にできるんですよ。TWOLAPS TCでやってきたことは自然につながっていきます。ただ、もちろん競技に集中したい時期はあると思うので、キャリアを考えて無理に何かをやるというよりは、MDCを一緒につくることだけでも十分に、自分の価値や思いを理解し、体現し、伝えることにつなげられると思っています。
―今後、日本で陸上競技の人気をさらに高めていくには、仕組みづくりがやはり重要になってきそうでしょうか?
横田 きちんとマネタイズする組織のロールモデルをつくり出していく必要があります。ただそれを「TWOLAPS TCだからできた」で終わるのは良くない。今後の陸上界という大きな視点で考えると、同じようなトライをするチームがもっと出てきてほしいですし、違う形もつくってほしいですね。個人で稼ぐよりも、仕組みで稼ぐようにすることが本当の意味でビジネスです。
あとはファンとの接点を増やすコンテンツをどれだけつくれるかも重要ですよね。すぐに結果が出なくてもそれを愚直にやり続けられるか。そして、そこからどうやってマネタイズしていくか。TWOLAPS TCはそれが回り始めてきたところで、少しずつ形になってきていますね。
―目指している事業規模はどれほどなのでしょうか?
横田 陸連を超えたいんですよ(笑)。目指すべき指標として、決して越えられないレベルではないなと。ロールモデルと言われる存在になるにはその規模を目指していくことが大事だと思いますし、それを陸上界にこれまでなかった形でつくりあげていくこと。「する・観る・支える」のこれまでの当たり前を、良い意味でがっつり変えていきたい。考えただけでワクワクしますよね。
―そういう意味では東京2025世界陸上は大きなコンテンツになると思います。東京で世界陸上が開催される意義はどんなところにあると考えますか?
横田 東京2020オリンピックでは会場で観てもらうことができなかったので、アスリートや現場の方々にとって、東京2025世界陸上は大きな意味を持っていると思います。TWOLAPS TCのミッションの一つとして「競技場を満員にしたい」という思いがあるし、そこから走る人が増えたり、夢を持つ子どもが出てきたりするというのは、スポーツが持っている価値だと思います。そういう意味では東京2025世界陸上が盛り上がり、競技に興味を持ってくれれば、TWOLAPS TCがやっていることに、より広がりが出てくるだろうし、つながりも生まれてくると思います。それをきっかけに、陸上競技を観てもらうことに対して、日本の陸上界がパラダイムシフトしてほしい。陸上界全体が集客やマーケティングの視点を持つようになってほしいですね。
―世界陸上で注目している選手、おすすめの選手はいらっしゃいますか?
横田 すごく無責任なことを言うと、新谷に出てもらいたいです。本人には言わないですよ。でもそう思っています。だから書いておいてください(笑)。彼女が持つ、オリンピックや世界陸上だけがスポーツではないという考えに共感しているし、応援もしていますが、いちファンとしてもう一回大きな舞台で走っている姿を見たいんですよね。
僕は大阪2007世界陸上に開催国枠で出させてもらいました。それを機に自分の考え方が変わり、世界に目が向くようになったんです。だから東京2025世界陸上も、若い選手が飛躍して、何かのきっかけを得る大会になってほしいなと思います。
―最後に東京2025世界陸上を楽しみにしているファンのみなさんへメッセージをお願いします。
横田 東京2025世界陸上は、選手や運営側が必ず面白い大会にしてくれると思います。有名な選手だけでなく、選手それぞれに魅力がたくさんあります。それを感じるためにも、ぜひとも会場へ観に来てください!
横田 真人(よこた まさと)/1987年 東京都生まれ
TWOLAPS代表
陸上男子800m元日本記録保持者であり、現役時代は富士通陸上競技部に所属。ロンドン2012オリンピック、大阪2007・大邱2011世界陸上出場。日本選手権では6回の優勝経験を持つ。 2016年に現役引退後、2017年4月NIKE TOKYO TCコーチに就任。2020年1月にTWOLAPS TRACK CLUBを立ち上げる。自身がコーチングを受けずに競技を行ってきた経験を活かし、選手一人ひとりに合わせた”オーダーメイドのコーチング”がモットー。選手とのコミュニケーションを何より一番大切にしている。
米国公認会計士の資格を持ち、スポーツに関連した様々なビジネスを手がけるなど、経営者としても活躍。
Instagram:masato_800
X:@MASATO_800
<TWOLAPS TRACK CLUB>
Web:https://twolaps.co.jp/trackclub/
Instagram:twolaps_tc
X:@twolaps_tc
2024.10.22
2020年6月に東京・国立市にオープンした「スターバックス コーヒー nonowa国立店」は、手話を共通言語とする国内初のスターバックス サイニングストア。 そこでひときわイキイキと働いているのが、さとりだ。 全身からあ […]
2024.10.22
2020年6月に東京・国立市にオープンした「スターバックス コーヒー nonowa国立店」は、手話を共通言語とする国内初のスターバックス サイニングストア。 そこでひときわイキイキと働いているのが、さとりだ。 全身からあ […]
2024.09.20
9月20日公開の映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』。 その原作となったのが、五十嵐が自身の半生を綴ったエッセイだ。 きこえない親を持つコーダの青年は、 何に苦しみ、何を抱え、何を見出していたのか。 そして今、ふたつの世 […]
2024.09.20
9月20日公開の映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』。 その原作となったのが、五十嵐が自身の半生を綴ったエッセイだ。 きこえない親を持つコーダの青年は、 何に苦しみ、何を抱え、何を見出していたのか。 そして今、ふたつの世 […]