中川 亮(デザイナー)|「SUGOI」が世界の共通語になる大会に
2024.11.27
株式会社アシックス
スポーツマーケティング統括部 スポーツマーケティング部長
2024.01.09
スタートは1949年―。
創業者の鬼塚 喜八郎氏がつくった社員2名の小さな会社が
今では世界陸上のオフィシャルパートナーとして
その名を知らぬ者はいないほどのトップ企業に。
鬼塚氏の精神を継承し、スポーツメーカーとして目指す姿
そして来る2025年の東京大会へのビジョンを聞いた。
―スポーツメーカーとして現在のポジションに至るまでの背景は?
松田 創業者の鬼塚喜八郎さんが、当時の戦友であった兵庫県教育委員会の保健体育課長に教えられた「もし神に祈るならば、健全な身体に健全な精神があれかしと祈るべきだ」という言葉に感銘を受け、スポーツによる健全な青少年の育成を目的に、本格的なスポーツシューズづくりをスタートされたと聞いています。
そこで最初につくったのが、スポーツシューズの中で一番難しいといわれるバスケットボールシューズ。「最初に高いハードルを超えられれば、その後のハードルもどんどん超えられる!」と鬼塚さんは考えたんですね。地元の強豪校へサンプルを何度も持ち込み、選手にいろいろな意見を聞きながら改良を重ね、1950年に発売に至ったんです。
その後スポーツウェアの製造にも着手し、野球用ストッキングで全国60%のシェアを達成するなど国際的なスポーツウェアメーカーとして発展していきました。その中で、運動用足袋が主流だったマラソンシューズに対し、よりマラソン走法に適したものとして「マラップシューズ」を発売。マラップは「マラソンアップシューズ」の意味で、軽量性や衝撃緩衝性など機能を飛躍的に向上させたんです。
そして1980年代にはアシックススポーツ工学研究所※を立ち上げて、人間の体の動きをしっかりと分析し、そのデータをもとにモノづくりをしていったんですね。それがわれわれのモノづくりの原点になっています。
※1985年、「スポーツで培った知的技術により、質の高いライフスタイルを創造する」というビジョンを具現化するために設立。人間の運動動作に着目・分析し、独自開発素材や構造設計技術により、革新的な製品やサービスを継続的に生み出すことを使命としている。
―世界陸上競技選手権大会(以下、世界陸上)のオフィシャルパートナーになられたのはいつ頃から?
松田 2017年に世界陸連(ワールドアスレティックス|陸上競技の国際競技連盟)とオフィシャルパートナーとして契約し、2019年から新たに10年間の契約を締結させていただきました。陸上競技はオリンピック種目であるとともに非常に長い歴史がありますが、われわれも長年にわたりマラソンランナーや短距離選手のサポートを行ってきたこともあり、その一環として参画させていただいたという次第です。陸上競技を通して、世界陸連の思いと、「スポーツ文化に貢献し寄与したい」というアシックスの思いが合致した。機が熟した、という感じですね。
―オフィシャルパートナーとしての具体的な活動とは?
松田 今は世界陸上にかかわるスタッフやボランティアの方々のウエア・シューズを提供しています。大会の際には女性のスポーツの実施率向上や、将来のランニングイベントの盛り上がりをつくるようなセミナーなども実施しています。また、世界陸上の開催時には、現地に『アシックスハウス』というアスリートや競技団体の関係者など世界中のお客様とのコミュニケーションが図れるような拠点を設けて、パートナーシップや関係性の強化も図っています。
―近年のオレゴン2022大会やブダペスト2023大会ではどのようなサポートを?
松田 オレゴン大会では、一般の方々が参加できる「マスレース」を実施したんです。世界陸上が行われるタイミングで、アスリートと同じ日に同じコースを走る、というイベントです。レースの当日だけではなく、事前に参加者とコミュニケーションを取りながら、走り方やシューズの選び方の講習などを行い、参加者のエントリーから完走までをしっかりとサポートさせていただきました。
2023年のブダペスト大会でもマスレースを行いましたが、主催が大会組織委員会に移ったこともあり、彼らが参加者をしっかりとサポートしてくださるようにコミュニケーションやサポートをさせていただきました。
―マスレースに参加された方々の反応は?
松田 オレゴン大会では700~800人ぐらいでしたが、ブダペスト大会では6,000人を超える方々に参加していただきました。その多さに本当にビックリしました!! ですが、われわれの中には東京マラソンや海外でのランニングイベントなどの知見が蓄えられているので、それらをフルに生かしながら運営に協力させていただくことができました。6キロという短めの距離だったんですが、参加者は年齢や障害の有無に関係なく、お子さんからお年寄りまで非常に楽しそうに走られていました。その日は37~38度ありとても暑かったんですが、それでも皆さん元気に完走されていたのがとても印象的でした。やっぱり、現地でいろいろな方がスポーツを楽しまれている様子を見るとワクワクしますし、それがスタッフのモチベーションにもつながると思うんですよね。
今後はいろいろな方々がスポーツを楽しめるような環境をつくっていきたいので、パラやデフの方々とも、陸上でひとつになれるようなコミュニケーションを取っていきたい。そのつなぎ役に、われわれがなれるといいなぁと思っているんです。
―マスレースの準備段階で苦労された点は?
松田 東京マラソンなど大型のマラソンイベントでもそうですが、「コースを占有して、そこを一般の方々に走らせる」という点です。地元の方々との連携・協力があってこそですので、そういった関係機関とのコミュニケーションを組織委員会が行っていくにあたり、パートナーとして知見を生かしながらフォローしていくのがポイントでした。2025年の東京大会に向けても、組織委員会の方々といろいろ思いをぶつけ合いながら連携していければと思っています。東京は大きく、人が多い都市です。「着実な大会運営」「安全第一」には重きを置きつつ、都民の方々に注目してもらえるような大会にしたいですね。
―世界陸上の舞台に立ち会われてきた中で、忘れられないエピソードは?
松田 ブダペスト大会でのやり投・北口 榛花選手の最後の投てきですね。現地で見ていたのですが、記録が出た瞬間は「ゾワァ~」ってしました! 2年後、こういった場面が東京でも見られるというのは、やっぱりすばらしいことだと思いますよね。う~ん、すごかったです! 最後の投てきまでなかなか記録が出ていなかったんですが、やりがぶわーっと飛んでいったんです。結果が出た瞬間、わたしの席の周りには日本人が結構多かったので、歓声がその周りだけとんでもなくて・・・。いやいやホントもう、あれはすごかったですし、われわれ日本人が盛り上がっているのを見て外国の方も立ち上がって一緒に盛り上がってくれた感じです。ホントすばらしい一瞬でしたね!
―ここからは松田さんのパーソナルな部分にも触れていきたいのですが、アシックスに入社されたきっかけは?
松田 わたし、地元が神戸なんですね。アシックスの本社も神戸にありまして、その頃、長田区というところに当社の工場があって、小学生のときにはそこに社会科見学に行ったりしていました。あとは小学校から大学までバスケットボールをずっとやってきたんですが、鬼塚喜八郎さんの名前を冠した「オニツカ杯」という大会が行われていたり、高校に製品開発の方がサンプルを持ってきたりと、小さい頃からアシックスに親しみがあってですね。なぜかこう漠然と中学生のときから「アシックスに入りたいな」という思いがあったんですよ・・・。それで、スポーツが好きだったので、大学に入って就職活動をして幸運にもアシックスに入社できたっていうのはありますね。
神戸にある企業は、それぞれの分野で地元の地域振興に寄与されているところがあると思うんですが、「スポーツの一翼を担っているのがアシックスだった」っていうところかなぁ。やっぱり地元に貢献したいとか、神戸のみならず兵庫県、あるいは日本であったり世界のスポーツにも貢献しようというのが、もともと創業者の鬼塚さんの思いとしてありますので、そこがわたしの就職活動にもつながったのかなぁと感じます。
―スポーツマーケティング部の統括部長として、仕事の魅力ややりがいとは?
松田 「スポーツを通じて、社会人として仕事として貢献していくことが正しい道なのかなぁ」と、おぼろげながら学生時代は考えていました。また、入社してからは「スポーツマーケティングとは?」について23年間ずっと考えてきましたね。
「スポーツマーケティング」について、わたしの中では二つの役割があるかなぁと思っています。一つはスポーツを通じてマーケティングを行い、アシックスとしてのブランド価値を上げたり、売り上げを高めていくという役割があると思うんです。もう一つは、「スポーツをマーケティングする」という役割があるかなと思っています。鬼塚さんが体育協会の方の意見を聞いて、地元の子どもたちであったり「地域に必要なモノはなんなのか」を考えたときに、その答えがやはりスポーツだったんですね。ですからわたしも「スポーツ自体をより良いものにしていくことで地域社会に貢献したい」という思いがありました。それを仕事にできたり、実際にスポーツと向き合える部署というのは、スポーツマーケティング部だけなんじゃないかと思い、ここで働いています。そこが一番の魅力ですね。
―オフィシャルパートナーとして、貴社ならではの強みやこだわりとは?
松田 われわれスポーツマーケティング部のメンバーとして一番大切にしていることは、「鬼塚喜八郎さんの思い」です。「そうした偉大な方がいらしたからこそ、アシックスの社員としてふさわしい行動を取らないといけない」という思いが強いんです。あとは「アスリートの意見を聞きながら、かつ、データとして蓄えているものをしっかりと生かして、アスリートに適したモノづくりを行っている」ことです。また、「モノだけではなくてサービス提供も行っている」という点も、ひとつ強みなのかなとも思いますね。そこに対する自負というのは強いと感じます。
―アスリートの方々とバチバチと意見を言い合うことも?
松田 もちろんもちろん! 合う合わないであったり、「ここはもっとこうしてほしい」「いやいや、そうではなくてこうです」とか。アスリートはご自分の能力向上のため、記録向上のために思いをぶつけてきますし、われわれはその思いを吸収して、モノづくりに転化し生かしていく。「パートナーとして、お互いの課題がなんなのか相互理解をして活動を進めていく」というところが、力を入れているところです。
―2025年に世界陸上が東京で開催される中、オフィシャルパートナーとしての目標や課題は?
松田 まず、アスリートの活躍をしっかりとサポ―トする。これが1つめの目標です。2つめは革新的な製品をつくり上げる。またサービスとしては、一般の方々に広めていけるような活動をしていく。3つめは、そうした製品やサービスを持続的に提供していけるような環境を2025年に向かって整えていく。この3つが目標として大きくあります。
課題に関しては、2025年に向かってのモノづくりや、持続的にサービスを提供していけるようなシステムなどがありますが、「それらを広くグローバルに提供していくにはどうしていけばいいのか? スポーツマーケティング部としてなにができるか?」ということを、部のメンバーとディスカッションしながら深めていきたいなと考えています。
―「スポーツを通じて、こんな社会にしていきたい」というビジョンは?
松田 「だれもが一生涯スポーツを楽しめる環境をつくっていきたい」という思いから、当社では『VISION2030』※を掲げて進めています。それは「モノづくり」だけではなく、「コトづくり」も含めて行っている、というところです。パートナーシップである大会の組織委員会やアスリートの方々に、われわれの課題というものも理解していただき、その課題の解決へともに向き合っていけるような関係性を築いていきたい。それが、スポーツマーケティング部としての活動の大きな目標のひとつであると思っています。
※「スポーツや運動を通じて誰もが一生涯、心身ともに健康であり続けられる世界の実現を目指す」ということを目的に、2030年までに、製品(プロダクト)・場の提供(ファシリティとコミュニティ)・データ活用(アナリシスとダイアグノシス=分析と診断)を重視して取り組む事業領域の指針。
―東京2025世界陸上に向けて、これから起こしていきたいアクションは?
松田 やっぱり、会場となる国立競技場へ行くことが「楽しみ」のひとつにならないといけないと思っています。知っているアスリートを応援したり、観に行きたいという環境をいかにつくるかですね。アスリートたちの、躍動感であったり動きであったり、そこで発せられる音みたいなものは現地で聞いてて「ゾワッ!!」っとするので、それをいかに感じてもらえるか。そのために、アスリートや競技のことをもっと知ってもらう、というのが重要だなと思っています。
2024年はオリンピック・パラリンピックがありますので、その盛り上がりを翌年の世界陸上までつなげていけるか。そして世界陸上のみならずデフリンピックにもつなげて、デフリンピックに参加されるアスリートのことも同じように知っていただけるような環境を、いかにつくっていけるか。それがおそらく「共生社会の実現」という、お互いがお互いのことを理解してスポーツを楽しめるような環境をつくっていくところにつながっていけるのかなと思いますね。
―2025年に開催される世界陸上ですが、東京ならではの大会の良さとは?
松田 東京は安心安全なまちであり、かつ、確実にイベントを開催できることです。「きっちり秩序を持って、お客さまに安心して観戦に来て楽しんでもらえる。ストレスなく観ていただける」というのは、やっぱり東京の強みというか、東京にしかできないところだと思いますね。選手も観客も、安心して大会に臨み楽しめるというところです。
もう一つは、日本のボランティアの方々が、海外から訪れた方たちをしっかりとおもてなししようという心を持っていることです。ボランティアの皆さんを見ていると、『ああ、日本人ってなんてすばらしい!!』と感じますよね。「いかに楽しんでもらえるか、いかに日本のことを、東京のことをよく思ってもらえるか、そのためにわたしたち日本人はなにをするべきか」ということを考えて行動されている方がとても多いんです。そんなときは「日本っていいなぁ」って思いますね。
一方で、スポーツの楽しみ方を日本人はまだまだ知らないのかなとも思います。ヨーロッパだと、少しの記録でもすごく盛り上がる。ですが日本の場合、座ってパチパチパチ・・・って。おしとやかというか、もっと感情を出してもいいんじゃないかなって。日本はつくられた応援や組織された応援が多いですよね。例えばリーダーのかけ声に合わせて応援する感じで。それに対し、自分たちで個別に盛り上がるのがあまりうまくないよな・・・と。そこが良さでもあり、だから秩序が守られるということもありますが、ひとりで応援していても恥ずかしくない、盛り上がりを高められるような環境をつくれるといいなと思います。
―東京2025世界陸上のオフィシャルパートナーとして読者の皆さんへメッセージを。
松田 アスリートが活躍する姿は、国や文化が違ってもやっぱり共通の感動なんだろうなと思います。それを実際に東京で観られるというのはなかなかない機会です。なので、ぜひ一緒に国立競技場で観戦しましょう! その来るべき日に向かって、オフィシャルパートナーであるアシックスもしっかりと準備を進めていきたいと思っていますし、2025年に皆さんが喜んでいただけるような製品であったりサービスであったりも、今準備を進めているところです。ぜひ期待いただきながら、ともに2025年を楽しみに待ち構えましょう!
松田 卓巳(まつだ たくみ)/1978年 兵庫県生まれ
株式会社アシックス
スポーツマーケティング統括部 スポーツマーケティング部長(2001年入社)
※2023年12月時点
小学生から中学、高校、大学とバスケットボールに励む。
仲間と協力して勝利を目指すこと、チームで物事に取り組むことに魅力を感じ日々練習に明け暮れる。
入社後はスポーツマーケティング部門にて約10年間、サッカー・陸上競技・ランニングを担当。その後、事業戦略部門、秘書、フィットネスジムの立ち上げ運営に従事。第2回東京マラソンの際には、東京都庁に出向し、事務局の一員として大会準備を行う。
現在はグローバルスポーツマーケティング担当として、アスリート、チーム、競技団体のサポートに加え、オリンピック・パラリンピック、世界陸上、世界パラ陸上などの国際スポーツイベントを活用した活動を担当し、社内外メンバーとともに目標達成に向けて活動を行う。
Instagram:asics_japan
X:@ASICS_JP
Website:ASICS
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