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2024.11.27
デフバレーボール女子日本代表監督
2024.03.18
淡々とした口調が実に印象的だった。
しかし、その裏には確かな情熱が感じられる。
デフバレーボール女子日本代表の狩野美雪監督は、
2011年の就任以来、ソフィア2013デフリンピックで銀メダル、サムスン2017デフリンピックでは金メダルに導いた。
卓越した手腕でチームのレベルを引き上げた指揮官の指導方針は示唆に富んでいた。
―2011年10月にデフバレー日本女子代表監督に就任してから12年が過ぎます。指導経験もなく、かつデフバレーということで当初、戸惑いはなかったのでしょうか?
狩野 デフバレーということはあまり気にしていなかったのですが、現役を引退したのが2011年で、次の進路や私生活も含めて、いろいろ決めなければいけないことがありました。私のイメージとしては、どこかのチームに所属してコーチを経て、ステップアップして監督になるものだと思っていたんですね。指導歴もゼロだったので、「私で良いのかな」というところが一番の戸惑いでした。デフバレーと出会った経緯としても、友人の今井起之さんが監督をされていて、それで手伝うことになったのですが、代わりに参加した合宿中に、入院中だった今井さんが病気で亡くなりました。そうした状況もあり、自分が監督を引き継いでいくことになったという感じです。
―指導する上で一番難しかったことは?
狩野 当初はチームのレベル感が分からず、自分がやっていたバレーと、選手たちがやっているバレーをすり合わせる必要がありました。日本代表ということで行ったので、その辺のギャップはありましたね。自分で考えた練習を選手にやらせてみても、できないことも多かった。そういった経験を積み重ね、今は選手と私が慣れた部分もありレベルの高い練習ができています。
―逆にやりがいを感じる部分は?
狩野 一番は選手が真面目なことですね。本人たちのひたむきさもあると思いますが、話をきくときは絶対にこちらを向くし、言ったことを一生懸命やってくれる。私は選手たちのそういう部分が好きです。彼女たちからすれば、そっぽを向いた時点で情報が何も入ってこなくなるだけなので、そういうことはしない。あとはスタッフのことをある程度リスペクトしてくれる部分もあってか、失礼な態度は絶対にとることはありません。(私が怖いのもあるかもしれませんが…笑)
―どのような方針でチームを強化していったのでしょうか?
狩野 あまり大層なものはないんですよね(笑)。ただ、目標は常にデフリンピックや世界で優勝することに置いているので、練習は厳しいと思います。慣れるとできるようになるのですが、最初はついていけない選手もいます。世界一になるためには、世界一の練習をする必要があるし、そういうメンタルを持たないといけない。やる気があるのは当たり前。最後までボールを追うのも当然です。自分の頑張りを自分の中だけで終わらせたら意味がない。そうした頑張りをちゃんと見せられるようになってきているので、スタッフはそれも考慮して選手を選んでいます。
―就任2年足らずでソフィア2013デフリンピックで日本を銀メダルに導きました。今振り返ると、どのような大会だったと感じますか?
狩野 ソフィア2013デフリンピックでは予選と決勝でウクライナに負けて、前回のカシアス・ド・スル2022デフリンピックでも予選でウクライナに負けました。私が監督になってから、デフリンピックではウクライナにしか負けていないんです。ソフィアでは客観的に見てもウクライナとは実力差がありましたが、選手は一生懸命やっていたので、勝たせることができなかったのは私の手腕の問題です。準決勝で対戦したアメリカも強豪で、場合によっては厳しいと思っていたのですが、そこに勝てたことは大きかったなと。こちらの戦術通りにできた試合だったので、それだけでも本当に収穫がありました。金メダルを取らせてあげたかったのですが、持っているものは出せた大会だったと思います。
―サムスン2017デフリンピックで日本は金メダルに輝いています。全試合ストレート勝ちと圧倒的な強さでしたが、その要因はどういうところにあったのでしょうか?
狩野 年長の選手たちがすごく我慢してやってくれていましたね。若い選手もけっこう試合に出ていて、その選手たちが今は主軸になっていますが、当時は高校生くらいでした。その年代の子はまだ不安定な部分もあるじゃないですか。頑張ってはいるけれど、技術やメンタル面で浮き沈みがある。年長の選手からすれば「どうして若い子はああなるの?」と。まぁ、自分たちもそうだったはずですけどね(笑)。それで大会中にも私に「(若い選手に対し)もう少しこうしてほしい」と言ってくるわけです。「でも、それ言ったらどうなると思う?」と聞くと、「萎縮してできなくなると思います・・・」と言うので、「それじゃ、やめておこう」と(笑)。そういう話をしつつ、若い選手は伸び伸びやってもらいたいので、あまり細かいことは言わないようにしていました。
―試合では選手たちにどういう言葉をかけるのですか?
狩野 浮き足立っていたら「落ち着いて」「集中して」と声をかけますが、どちらかと言うと、プレーのヒントになることを言ってあげる方がいいと思っています。どうしたらいいか分からないときが一番困っているとき。そこで「頑張れ」と言われるよりも、例えば「相手のどこが空いているよ」などと具体的なことを言ってあげた方が、選手も助かると思うんですね。そういうことを言うように意識しています。
―監督ご自身は結果に対して、どこまでこだわっていますか?
狩野 監督としては選手を勝たせてあげたい。チームとしても勝ちたい。でも、個人的には勝ち負けだけでそこまで浮き沈みはないです。チームや選手が勝ったらもちろん嬉しいし、感動もしますが、それと同じくらいそれまでのプロセスが大事だとも思っています。もちろん試合で勝つために、練習中は厳しく要求はします。ここはメンタルを鍛えるときだと思うこともあるし、追い込むこともあります。ただ、そこは精神論と根性論で分けたいと思っています。
―精神論と根性論は似て非なるものだと。
狩野 そうですね。精神的に追い込む状況をつくり出す練習はします。例えば「あと一本外したら負けるよ」ということでプレッシャーをかけてプレーさせる。ただそれを100本打って倒れるまで、という追い込み方はしないです。一方でトレーニングでは、最大限やってもう一段上げることにより強い肉体をつくるので、そこは多少根性でやらせるようなことはありますが、事前に練習やトレーニングの目的を説明してやらせるようにしています。
―お話を聞くと、指導する上で「こうしろ」ではなく、まず一度問いかける、考えさせることを大事にしているように感じます。
狩野 自分で考えられるところまでいっている選手にはそうしています。ただ、そうじゃない選手もいる。何もないのに考えるのは難しいので、ベースがない選手には引き出しをまずつくらせます。
―ご自身が指導するうえで、軸となっている考え方や、経験などはありますか?
狩野 何か一つのことにこだわり過ぎないことが、ある程度のこだわりです。「これじゃなきゃだめ」というふうには基本的にしない。自分が現役のときに様々な指導者の方を見てきました。バレーを始めたときの中学校の顧問は、理科を担当する女性の先生で、全くバレー経験がなかった。でもすごく熱心で、朝練も自分たちが来る前からいてくれたりして、私はその先生が好きでした。
それから多くの指導者に出会いましたが、最初と最後の方は印象に残っています。最後は現在の日本代表監督である眞鍋政義さんです。二人は全然違うタイプですが、最初の顧問の先生は一生懸命やってくれて人として好きでしたし、眞鍋監督からはバレーをやっていくうえで必要なことをいろいろと学べました。様々な指導者を見て、良かったところを自分でも取り入れています。
―中学の先生はどういうところが良かったのですか?
狩野 今考えると一緒の目線に立ってくれていた感じがします。自身に競技の経験がないだけに、一生懸命ボールを投げてくれたり、少しのことは見逃してくれたりと(笑)。私のように大きくて、有望っぽい選手を見るのが初めてだったみたいで、自分で指導するのは難しいから、練習や試合で他の指導者のところに連れて行ってくれた。後から知ったのですが、自分で頭を下げて、「教えてあげてください」と言ってくれていたみたいです。
―眞鍋監督はどのようなところがすごいと感じますか?
狩野 久光製薬で一緒にやっていたのですが、まず初めにバレーボールを仕事としてプロ意識を持つことを教えていただきました。当時の私のような年長の選手には、近い距離で、一人の人としてリスペクトしていただいていたと思います。監督として自分一人でやるのではなく、組織をまとめて一人ひとりに責任を持たせてチームをつくっていくというイメージがあります。
―ご自身はどちらのタイプですか?
狩野 私は選手と適度な距離を置くタイプですね。もちろん普通に話はしますが、選手と個人的なやり取りはしないようにしています。選手全体のグループLINEにも入っていません。マネージャーやトレーナーは入っているので、そこから情報を聞いたりはしていますが。
私の考えですが、解決できることは自分たちで解決してほしいんです。私が知るのは最後でいい。例えば選手同士で喧嘩をしたとして、解決したらそれでいいし、スタッフが入ると余計にこじれたり、そういう目で見てしまうかもしれない。できることは自分たちで解決してもらうようにしています。
―監督ご自身にとって、デフリンピックはどのような大会ですか?
狩野 大前提として、私は聴覚障害の専門家ではなく、バレーボールの指導者です。今、指導しているのがデフバレーのチームというだけで、これが学生やママさんのチームでも、そこに合わせて一番良い指導をして、チームをつくるのが仕事だと思っています。
デフリンピックは選手たちの目標で、彼女たちを勝たせてあげたい。本当は選手の人生を左右する大会であってほしいのですが、サムスン2017デフリンピックで金メダルを取ったからと言って、選手の人生が大きく変わったわけでもない。オリンピックで金メダルを取ったら人生が変わることはあるかもしれないですが、デフリンピックはそこまでいっていないように個人的には思います。ただ、それを変えていくのは自分の仕事でもあると考えています。
―今後デフバレーや、デフスポーツをどのようにしていきたいですか?
狩野 指導するようになってから、自分が知らなかった世界を知ることができました。正直言うとバレーは割とお腹いっぱいで、知ったつもりになっている部分もたくさんありました。でも実際は違って、デフスポーツやデフバレーに携わったら、新しく知ったことがいっぱいあったんです。選手たちと一緒に生活やバレーをしていく中で本当にちょっとしたことで、なるほどなと気づかされることがあります。聴覚障害の専門家じゃない故に、そういうことを一般人として周りのみなさんへ伝えられたらいいなと思っています。デフスポーツの選手たちはみんな、ポテンシャルがあります。ちゃんとプレーができる場所や環境をつくれば、もっと多くの競技でデフリンピックのメダルを取るチャンスがあると思います。
―東京2025デフリンピックでの目標を教えてください。
狩野 金メダルという結果はもちろんですが、うちの選手たちを見て、「自分もできると思ってほしい」という目標もあります。選手たちは本当に一生懸命なので、ボールに最後まで食らいつく姿勢は必ずみなさんに良い影響を与えられると思います。熱量や必死さはバレーの日本代表にも負けてないと思うので、そういうところを見ていただきたいです。私は彼女たちと一緒にいるのが当たり前のことで、それはすごい変化だと思っています。私の中での普通は、彼女たちと一緒に過ごしたり、話したりすること。みんながそうだったら、区別をつける必要なんてないし、将来的にそうなればいいなと思います。
―最後に東京2025デフリンピックを楽しみにしている読者の皆さんにメッセージをお願いします。
狩野 選手にも言っていますが、私たちは応援をしてもらうのではなく、みなさんを応援するためにやっていると思っています。もちろん応援していただけるとありがたいですし、応援してくださいとも言います。ただ逆にそういう姿を見ていただき、自分も頑張ろうと思ってもらうためにやっている部分もあるので、そこは真面目に伝えたいです。
狩野(川北) 美雪(かのう(かわきた) みゆき)/1977年 東京都生まれ
デフバレーボール女子日本代表監督
現役時代はVリーグで活躍し、北京2008オリンピックに出場。2011年に現役を引退し、同年にデフバレーボール女子日本代表の監督に就任する。
デフリンピックではソフィア2013大会で準優勝、サムスン2017大会で世界一に輝く。連覇を目指したカシアス・ド・スル2022大会では、日本選手団のコロナ観戦により、ベスト4で途中棄権することとなった。
現在は女子日本代表監督の傍ら、日本バレーボール協会アスリート委員・日本バレーボールオリンピアンの会理事を務め、バレーボール・デフバレーボールの強化と普及活動に取り組んでいる。
Instagram:migo7na5
《デフバレーボール女子日本代表》 Instagram:jdva_woman
《日本デフバレーボール協会(JDVA)》 Instagram:jdva_reiwa_7
Website:日本デフバレーボール協会
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